沢庵の缶詰


4月に熊本から帰ってきて、夫と合流して8か月たった。

お互いマイペースの生活。私は書道とスケートを再開し、夫の週末は魚釣りと昼寝。

仕事はきついわけではないけど、3度目の落城体験。通院、歯医者、弁当つくりと洗濯。

部屋が少し散らかった。

 

連休は、夫と天草に行く。
三角の橋を越えると、クルマの窓から海と船が流れ込んでくる。
潮のにおいに生き返る。

本渡の新和荘のおじさんは、少し老けて太っていて、木の大きなお風呂に夫と二人で浮かんだ。

夫の地元では、葬儀を「どにん」達が手伝ってくれる。
それは町内会の班のようなもので、受付から交通整理やらお茶出しやらやってくれる。
お礼は些少の現金と打ち合わせの時の飲み物とお菓子。
セレモニーホールも、お香典集計用のパソコンがあったり、どにん仕様になっている。

お香典も持ってきてくれた。

父の命日が近づいたので、夫と墓参りに行く。

本郷三丁目の駅からおやつかじりながらゆっくり歩いてお寺に着くまでに梅の花が咲いているのをだいぶ見つける。

「あれから13年ですね。少しはそちらに慣れましたか」と聞いたら

「慣れられないなあ。。。」という声が聞こえる。

「でも、もうこっちに帰れないしね」「むしろ、半分しか行ってない気もするな。お前が忘れていないから。まあ、同居人もできたし、お前は夫を連れてくるし、死んでからでも予想外なことってあるな。」

と言ってたと思う。

 

世田谷公園の近く。夫の「いつか行ってみたかった店」の一つ。

アンティークの家具や雑貨に囲まれながら飲んだコーヒーの香り。天井にたくさんぶら下げたシャンデリアやちょっと怪しい雑貨たちの空間。

コーヒーとチョコレートケーキがとてもおいしかった。

 

江國香織の「いくつもの週末」に、「一人でいるとモノトーンなのに、夫がいる週末は、家の中が色つきになる」というくだりがある。

この3日、夫がいないので、家の中が禅寺のように森閑としている。

招待券はネットオークションで最高7千円だそうだ。

整然と行列して整然と着席する。最初に日の丸入場と君が代斉唱。大臣はそろっとやってきてあいさつした後は持参のカメラで写真なんかとってる。

演奏がうまいかどうかわからないけど、次々変わるフォーメーションが楽しい。儀仗隊のぴしっとそろったパフォーマンスは人間技ではないと思った。

音楽隊とか儀仗隊とかって、戦闘に関係なさそうだけどどこの軍隊にもあるらしい。

旅館の朝ごはん。

おひつの横の急須にお湯を入れて、お茶のお代わりをしていたら、お茶碗がすっと出てきた。

いつもは自分で炊飯器までよそりに行くのに。

油断したのか、それとも一度やってみたかったのか。

 

戸惑いながら少し甘い気持ちにもなる。

いつも通りに起きて、朝ごはん食べて9時に出発。

ホテルに着いて、夫の両親とお茶している間に支度開始の時間になる。

思い切り化粧されて、ドレス着てブーケ持ったら、ちゃんと「お嫁さん」になった。たくさん写真とって、ドレスの裾踏んづけて、赤面するような祝辞を受けて、あっという間にお開きになった。

2日経って、今日もまだフラフラする。

ベランダで煙草を吸っている夫を、窓越しにみる。

空を見ながらせわしなくふかしている夫は、結婚していることを忘れているように見える。

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